mo! もあざん

当ブログは新米作家馬場貴生のブログを使った自分メディアです。ものづくりの中からの発見などを通じて、僕自身がステップアップしていくさまを発信していきたいと思います。

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毎日創作 #35 根なし草のそれまでとこれから

   

実につまらない犯罪で服役したことがある。
娑婆に戻った後も、妻のもとには帰らずに根なし草になった。
それまで支えてくれた妻に申し訳が立たなかった。
歳をとり、ひとりで暮らすのもしんどくなり、高齢者向けのシェアハウスというものに入居することにした。
高齢者向けという言葉が実に引っかかるが、老人ホームでなかよしこよしでレクリエーションなんてものは想像しただけでぞっとする。

シェアハウスは、リビング、台所、ふろ、トイレが共同で、介護士の免許を持った管理人のみが30代で、後は老人ばかりだ。

基本自活能力のある高齢者が対象で、老人ホームのように世話されるわけではない。
入居者で協力しながら生活するのが基本だ。
介護が必要になったら、そういう施設に行かざるを得ないかもしれない。
でも、自由があっていい。

しかし、私はどうにもほかの入居者とはウマが合わない。
誰と接しても、どの老人も自分とは違う人生を歩んできたという思いが強い。
私は刑務所に入っていた。
皆、きれいな人生を歩んできたという風で、私は気おくれしてしまう。

老人ホームのように、仲良しを強要されるわけではないので楽は楽だが、疎外感が付きまとう。

そんな折、入居者のひとりの痴呆が激しくなった。
彼は介護施設に入ることになり、その時暇をしていた何人かがついていくことになった。
それに私もついていった。

管理されたホームの中で、それはそれで楽だろうと思った。
自分で決める必要もないし、責任もない。

ぼんやりとロビーの様子を眺めていたら、妻の姿を見つけた。
私は思わず、彼女に駆け寄った。
彼女はとうに年老いていた。
私のことが分からなくなっていたが、昔話として私との日々を語るのであった。

私は目の前にいるのに。

彼女は自分の夫がいかに素晴らしいかを、私に話すのだ。

私はいたたまれなくなった。
彼女は私がいなくなった後も、私を待っててくれていたのだ。
私は、私のことしか考えず、長い間彼女を傷つけてきたのだ。

たまらなかった。

ホームの暮らしはシェアハウスほど自由がない。
しかし、彼女がいる。
彼女は目の前の私を、自分の夫とは認識できないでいる。
しかしいいのだ。
私は彼女の目の前にいるし、彼女の中で私は生き続けている。

@babarts1979

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